シナリオ法|キーワード辞典

シナリオ法

一般にシナリオといえば、映画・演劇などの台本をすぐ思いだす。そのシナリオのイメージには科学的合理性よりも創作性・文学性のほうが強い。しかし、システム分析分野の日から生れたシナリオ法の目的は、つぎのようなものである。

ある事象が、将来どのような影響力をもつようになるのかを明らかにするため、それに関連のあるすべての条件を洗い出し、その状態を予測して、その予測にもとづいて変化する将来の事象を物語風の文章に書きあらわすことにある。

つまり、ある事象が、ある状態から時間の経過とともに、周囲のさまざまな関連条件に直接的、間接的な影響を受け変化しながら、別の状態に移ってゆくそのプロセスを予測する。しかも、その関連条件とその影響のしかた、その事象の変化のしかたには合理性がなくてはならない。

このようなことから、シナリオ法は、将来の企業環境の変化を事前に察知し、その対応策を常に考えながら、経営していかねばならない企業経営の分野において、きわめて有力な経営管理手法として活用されている。

企業経営にシナリオ法を活用する目的には、次のようなものがある。

(1) 企業を取り巻く環境の未来予測とそのときの企業の状況分析のため。
(2) 予測される企業の将来像が好ましいものであれば、その実現の方策を、もし、脅威となるものであれば、その回避の方策をどうするかという戦略立案のため。
(3) 企業の将来像をもとに立案された企業計画や企業戦略を決定するに当っての、新しい評価基準を得るため。

今日のように技術の進歩が著しく、その上、企業をめぐる社会、政治、経済といったいろいろの環境変化の度が激しく、しかも多様化、複雑化してくると、今までのような画一的な、かつ、現状延長型発想の計画立案のしかただけでは、企業の戦略的対応力を著しく欠いてしまう。もっと弾力性をもった変化対応力のある計画が必要となる。そこで、シナリオを作成するに当っては、いろいろな代替案を提供しやすくするため、 一通りの状況設定によるシナリオだけでなしに、最低三通りのシナリオが必要である。現状延長未来型、バラ色未来型、灰色未来型の三つである。

シナリオ作成の手順

シナリオ作成に当っては、まず、事前にそのシナリオの枠組みを設定し、それを将来に向けて展開する基本的考え方とその展開範囲を明確にしておく。

それには第一に、シナリオ作成の目的をはつきりとさせること。第二には、 シナリオ展開の範囲、 たとえば、対象、予測時期、関連要因の数と範囲などを設定すること。第三には、バラ色、灰色などの状況・立場を明確にしておくことが重要である。

シナリオ作成の手順は、一般的にはつぎのようなものである。

まず、過去から現在までのその対象に関する時系列分析などによる歴史的動向分析を行う。これと組み合せる形で種々の手法を用い、未来環境予測を行う。この分析と環境予測にあたっては、技術的、経済的、社会的、政治的、生態学的環境のそれぞれの環境に区分して検討するとよい。

一方、長期予測にもとづいた企業の長期経営計画などの定量的データとこれらの歴史的分析と未来分析とを整合させ、量的計画に質的な意味づけと翻訳を加え、未来イメージを創造的にふくらませてゆく。そして、これを時系列ストーリーにまとめる。

これがシナリオである。このシナリオ文の書き方には、定まった形式は特になく、きわめて自由度が高い。シナリオの目的と対象によって、その形式や構成内容が著しく変る。

シナリオ作成上のポイント

説得力のあるシナリオ作成のためには、いくつかのポイントがある。

(1) ある事象の変化のプロセスには、連続性と合理性とがあること
(2) ある事象の変化のプロセスには、意思決定が迫られるような大きな分岐点を持たせること
(3) シナリオの構成する政治、経済、社会、技術、生態などの諸環境の相互関係に矛盾を感じさせない記述をすること
(4) 量的変化が質的変化をもたらす状況を明確にし、その理由を必ず明記すること
(5) 過去の傾向の延長が妥当でない場合、あるいは不連続な事象を生じる場合には、特に独創力と洞察力を発揮し、その因果関係の連鎖に合理性を与えること

以上のポイントに十分留意し、まず、シナリオを書いてみることが上達の早道である。

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