金属組織は、材料の良否や焼入れ焼戻しの状況をよく反映していますから、とくに対象物が鉄鋼製品の場合には顕微鏡組織試験は熱処理品の品質管理には欠かせない手段です。
顕微鏡組織を正確に判定するためには、検査対象物から顕微鏡観察用試験片を作成する必要があり、その試験片の作成手順は図1に示すように、切断から研磨工程を経て、最終的にはエッチングによって組織を現出して、熱処理状況などを判定します。
切断時の注意点は、切断熱によって変質しないように適正な切断条件の選定や十分な冷却を心がける必要があります。切断後はそのまま研磨する場合もありますが、その多くは研磨を容易にするために、樹脂に包埋して検体とします。埋込樹脂にはアクリルやフェノールなど種々のものがあり、短時間硬化性や長時間硬化性、硬質のものや軟質のもの、など各検体に対して適したものを選びます。
研磨は、一般には粗い研磨紙(#180~#320)から開始して、順次細かくして、最終的には#1200以上まで研磨し、この後は十分に研磨粉を洗い流してからバフ研磨して鏡面に仕上げます。バフ研磨剤としては、ダイヤモンドやアルミナ(酸化アルミニウム)が用いられています。
鏡面研磨が終了したら、はじめにそのままで顕微鏡観察し、非金属介在物や酸化変質の有無などを確認し、その後にエッチング液によって現出させた金属組織を丹念に観察して、熱処理状況などの判定を行います。表1に示すように、鉄鋼材料の一般的なエッチング液として硝酸アルコール溶液が用いられています。このエッチング液は通称ナイタルとよばれて、機械構造用鋼などの調質品であれば3~5%硝酸溶液が、また高合金鋼であるダイス鋼や高速度工具鋼の場合は10~20%硝酸溶液が有効です。そのほかに、ステンレス鋼に適したものや、特定の炭化物だけを選択着色させるエッチング液などもあります。
表1:鉄鋼材料の主な金属組織現出用エッチング液
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