【既存手法】
モノの流れは、川下の需要変動が拡幅して川上に伝達される「発散」(ブルウィップ効果)、販売(見込)の変動を緊密な情報共有によって調達・生産に伝達させる「振動」(TOCのDBR: JIT・POS等の同期)、そしてサプライチェーン上の一番遅いモノの流れとなっているボトルネックの速度に調達・生産を合わせる「一定」(TOCのS-DBR)の三つでした。
発散は、サプライチェーン上の各経営体が情報共有せずに各自でモノを少なくすることによって起きる現象です。川上ほど最終製品にくらべて在庫・在庫能力・生産能力等の瞬間的な量を求められ、それらは不要なコストにつながるので、産学双方からその解消に取り組みが続けられてきました。
発散の解消の目指す方向は、調達・生産を販売と同期させることでした。つまり意図せず増えるサプライチェーン上の過剰在庫を払拭し相応の資金に転換し続けることが理想とされ思い込み続けられてきました。
さらに、販売の振幅が拡幅せずにそのままサプライチェーンをさかのぼったとしても、振幅を受け止め切れないボトルネック以上に生産・販売できないことから、最低速度と調達・生産を同期させること(一定)によっても過剰在庫を払拭させることが併用され、資金最大につながると目され続けました。
パンデミック以前は、発散を忌避するために振動か一定によってサプライチェーンが駆動され、これら2つを統べるものとして制約条件の理論(TOC)があり参照されてきました。異なる名称等で取り掛かっている場合もありますが、TOCの範疇で説明可能な取り組みでしかありません。つまり、調達・生産を需要か制約で示される販売と同期させているのです。
【既存手法の盲点】
理論上は前述の通りですが、原材料、部品、そして製品のいずれかの時間も含めた不足による失注(既報のファントム)はデータに載らずに過ごされてきた経緯があり、パンデミック以前であってもどこかでモノ不足はあったのです。加えてパンデミックとなると、調達先やそれより川上において、需要に応ずる原材料・部品を用意できなくなる状況が散見されることは想像に難くありません。サプライチェーンを貫いたフォーキャスト(内示)を参加者全員で了承しても、どこかで数量に満たない出荷しかできなければ、納期遅れや失注につながります。
【パンデミック以降の対策のビジョン】
一か月生産システムを停止させることでかわせるような事態ならばそれでよいかもしれませんが、数年間にわたり生産システムを停止しつづけることも非現実的で、いつかは操業を再開することでしょう。しかしオーダー通りの数量が入荷される従来の保証は、調達先やそれより川上に突然ボトルネックが生じることで、パンデミック以前よりも希薄になるでしょう。こうした間断的な欠品に対して既報の通り調達を「安定」させることはひとつの解決方法になるかもしれません。
【安定の定義】
安定した調達のイメージは読者によって異なることでしょう。狭義の安定は、ほぼ一定に近く若干の凹凸がみられるにすぎない挙動が一般のイメージでしょうか。
パンデミック以前は発散を、情報共有によって、需要の振動か制約の一定に変換してきました。ですからSCMの分野において、需要よりも小さな振幅であることを広義の安定として含むことも提案します。
【方針と安定のつながり】
前報で紹介した提案法のうち「精査」は、生産計画の草案から資金繰りを見込み、損失の月につながる調達を複数の月へ押均して前倒すことですべての月に利益をつくるようにします(これまでも、生産能力不足でもあえて受注して行う前倒し生産での調達があったので、生産を資金繰りに読み替えればご理解頂けることと思います)。すべての月を利益に変え続けることが精査の一番のねらいです。このねらいを「すべての月を利益に変えやすくすること」に拡張すると、前倒し・山崩し・押均しをすべての月に実施することになり、調達はひとことでいえば安定化させることになります。こうした安定は、生産計画の再立案回数を減らします。
【安定の効果と地域貢献】
調達を制約にさせづらくするため調達の安定化を提案します。これは、原材料・部品の必要となる瞬間値の最大量を低くして、入荷した原材料・部品を欠品にさせづらくすることをねらっています。
提案法は調達を前倒すので、従来の同期にくらべモノを多くさせることになり、パンデミックや立ち直り時期で予想される原材料・部品に生じた数量不足等のダメージを軽減・解消しやすくします。
また川下で調達が安定化されると、サプライチェーンをつらぬいて川上まで全般にモノの流れが自動的に安定化されるのでSCM自体がシンプルになります。
納期通りに十分な最終製品を揃えることが顧客満足に直接つながり、さらに生産と輸送の安定は各業種・現場の従業員満足にもつながります。
モノの流れの安定はお金の流れの安定を伴うので、サプライチェーンの各参加者の健全経営につながり、従業員の雇用・賃金も安定し、地域への経済効果・経済循環への貢献が期待できます。
生産システム・サプライチェーンの国内回帰が予想されます。革新と健全をねらい、一部の調達からでも本提案を採用してみてはいかがでしょうか?
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