カントリーリスクとは
海外投融資などが遭遇する相手国別の危険で、かつ相手国政府(主権)が関与し、企業や個人にとって不可抗力となる危険を指す。カントリーリスクマネジメントはそれを管理する技術。
カントリーリスクの考え方
カントリーリスクの基本的な考え方はつぎの三つの柱によって構成されている。
第一は、海外投資融資などが遭遇する相手国別のリスクを指している点である。しかもある国でカントリーリスクが発生すると、その国に投融資した企業は、国籍のいかんにかかわらず、原則として同じリスクに遭遇する。
第二は、企業や個人にとって不可抗力なリスクとなっている点である「戦争や革命の発生、国有化などがその例である。一方、海外投資における計画の不備、日本人経営者の無能に起因する経営不振などは、自己の責に帰するリスクで、カントリーリスクとはいえない。
第三は、相手国政府(主権)が明らかに関与している点である。相手国の対外債務返済困難に起因する債務の返済繰延べ(リスケジュール)、あるいは相手国政府による制度。政策の変更がその一例である。また相手国政府が前面に出ず、裏側から圧力をかける「しのびよる収用」もこれに該当する。
もう一つ、カントリーリスクの考え方として重要なものに、危険(Risk)と不確実性(Uncertainty)とがある。
カントリーリスクの視点からみた「危険」とは、リスクが発生する確率をある程度まで予知しうるものを指す。これに対し、「不確実性」とは、情報やデータが得られず、しかも、具体的なリスクの予知が不可能なものを意味する。
「危険」と「不確実性」との識別はリスク分析における重要な視点である。現行のリスク予知の手法は具体的な情報やデータの分析・評価にベースを置いているため、「不確実性」は泣きどころである。
投資と貸付のカントリーリスク
海外投資のカントリーリスクは、非常危険と相手国政府による制度。政策の変更が主たるものである。海外投資の非常危険には、戦争危険(戦争、革命、内乱、暴動)、収用危険(国有化、しのびよる収用)、送金危険(為替取引の制限・禁止など)がある。制度。政策の変更は、国産化率引上、原料・部品の輸入規制、現地化要請、就労制限などである。
リスクの対象となるエクスポージャーは、出資金、長期貸付金、不動産に関する権利、投資の果実、保証などである。エクスポージャーは一般に、投資の実施後、時間の経過とともに膨張する傾向がある。またリスク発生の態様は、戦争や国有化などリスクの内容、発生したリスクの度合によってそれぞれ異なり、必ずしも一様ではない。
対外貸付のカントリーリスクは、相手国政府による為替取引の制限・禁止や契約の取消、戦争などによる為替取引の途絶などが主たるもので、海外投資における送金危険と対応する。
対外貸付のエクスポージャーは、貸付けた元本と利息、輸出の契約後、後払方式の未収金などが主たるものである。ただしエクスポージャーの範囲はいずれも船積または貸付実行によって確定する。またリスク発生の態様は、最終的には債務不履行に帰する。
対外貸付の中で、プラント輸出金融、シンジケートローン、円借款は長期の与信となるので、実施に際しでき得る限りのリスク対策を講じておく必要がある。
リスク・マネジメント
リスク・マネジメントには三つの段階がある。第一段階は投資や貸付の実施前に行うリスクの予知で、遭遇する可能性のあるリスクの範囲と内容を測定する。
第二段階はリスク予知の結果を踏まえたリスク対策の実施である。その主眼は企業が負担するリスクをいかにしてミニマイズするかにある。
第二段階は実施後におけるリスクの監視である。実施後の情勢変化の把握とこれに即応した対策の再検討と実施である。リスク・マネジメントはこの三段階の作業を相互に機能させることによって本来の機能を発揮する。
リスクマネジメントの三段階
第一段階のリスク予知では、情報の収集とリスクの分析・評価が中心となる。分析・評価の手法のうち、代表的なものはつぎの二つである。一つはカントリー・レポート方式で、特定国を対象とした総合的なカントリーリスクの分析・評価を行う。海外投資や大規模なプラント輸出には有効な手法であるが、採用に当っては有能な専門家の存在が前提となる。
もう一つはチェックリスト・システムで、取引相手国全体を対象に、政治。経済面の各要素を同一尺度で分析し、国別の相対的な評価(採点)と格付を行う。これによって国別格付表が作成される。ただし国別格付が平均化された得点で表わされ、個々の国の特徴や問題点を的確に把握しにくい欠点がある。このため、でき得る限り前者との併用が望ましい。
第二段階では政府の施策(たとえば保険)の活用と、企業自身の対象とによってリスクのミニマイズを図る。企業自身の対策のうち主要なものはつぎの三点である。
第一は、カントリーリスクを担当する審査体制の組織化と専門家の整備である。
第二は、国別の総合与信管理である。その目的は特定国への信用集中の排除と国別の危険分散にある。国別総合与信管理は、国別格付をベースとし、自己資本に基準を置いた国別限度設定の形をとるのが通常である。
第二は、個々のプロジェクトを対象にしたリスク対策である。プラント輸出における世銀融資、バンクローンなど直接借款の活用、海外投資における多数企業での共同出資がその一例である。
第三段階の監視では、回収の動きを厳重にチェックするとともに、国別評価の定期的見直し(最長一年)を行い、情勢変化に応じた国別与信限度の修正とリスク対策の再検討を実施する。とくに海外投資の場合は、環境変化を踏まえたタイミングよい対応を図っていくことが肝要である。
koushiru事務局
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