超音波の音圧測定・超音波洗浄とキャビテーション 

超音波の音圧測定

超音波洗浄器(機)の実験で、アルミ箔のダメージの様子でキャビテーションの強さを評価する方法があります。

短時間で、アルミ箔が粉々になることが超音波洗浄効果につながるという考え方に展開します。

キャビテーションの強さは、音圧レベルの高さにつながる傾向はありますが単調な音圧は、高い音圧でも対象物への刺激は強くありません。
(特に、50kHz以下の超音波の音圧は、波長が長いため小さい汚れにはほとんど刺激となりません。柔らかく抑えているようなイメージです。)

超音波洗浄資料には周波数と汚れの関係が記載されているものがありますが、汚れの材質・形状・付着力・・・に対してキャビテーションが汚れを除去するというような表現です。

しかし、文字通り解釈するとキャビテーションは振動現象です。水槽内でのダイナミックな、汚れの移動にはつながりません。

そこで、キャビテーションとともに流れを発生する非線形現象(音響流)の働きが問題となります。

結局、汚れを除去する音響流とはどのようなものかを知らなくては、自然な、超音波洗浄現象も分からないことになります。

超音波の伝搬状態について時間経過とともに変化(音圧・周波数)する様子を把握しないと、洗浄目的に対して、洗浄物の表面に伝搬する効果的な超音波の状態も分からない。

効果的な超音波の伝搬状態を無視して「キャビテーションによる洗浄」などと言われても、これから超音波洗浄システムを開発・改良しようという人にとっては何の役にも立たないことになります。

結局、洗浄効果につなげるためには、洗浄対象物の表面を伝搬する超音波の状態をとらえることが先決問題となります。

実際に音圧測定データからは様々な音圧形状(グラフ)が見えます。洗浄水槽に洗浄物を入れることで水槽・洗浄液・超音波の相互作用により複雑な反応が見られます。

その結果、洗浄器・水槽の設置・固定方法により超音波振動が、設置面に効率良く伝搬すると超音波が大きく減衰する場合があります。あるいは、水槽・洗浄液との共振により低周波の振動が強く発生し騒音になる場合もあります。

音圧測定から得られる情報・事実、瞬間的な音圧データや音圧レベルの高さではなく複雑な音圧変化(非線形性)の重要性を読み取ることができます。

これが、「超音波の重要(効果的)な要因は、音響流である」と言うことです。

超音波洗浄とキャビテーション

超音波洗浄セミナー終了後の質問で、以下のような経験を多数しています。

これまでに、超音波洗浄の原理として、キャビテーションに関する説明を受けてきましたが、洗浄経験から、ほとんど納得できませんでした。

セミナーの説明にある「非線形現象による音響流の効果」は詳しいことは理解できないのですが、洗浄現場の状況に対して非常に納得できます。

単純な洗浄成功事例を、キャビテーションで説明することは簡単に理解できるため、幅広い応用ができると思いがちです。

洗浄対象物(形状、材質、数量、・・)が異なる場合、キャビテーションで単純化した洗浄方法を応用すると全く異なる超音波伝搬状態を目標にしているような危険にさらされます。

洗浄状態を改良しようとしても単純化した洗浄原理に基づいた対策が行われるため、洗浄効果が表れないで、逆効果になっている事例を多数見ています。

単純な洗浄モデルで考えた場合、洗浄対策も単純になる傾向があります。

洗浄の難しさは、簡単に洗浄できた経験者や超音波の複雑な音圧変化を測定確認していない人には理解できないでしょう。

30年ぐらい前の脱脂洗浄レベルに関しては「超音波洗浄はキャビテーションの効果である」という表現も間違えだといえない状況だったと思います。

ナノレベルを問題にする、洗浄に関しては「超音波の重要(効果的)な要因は、音響流である」という考え方が必要です。

実際に、キャビテーションで洗浄していることは確信が持てないものです。

洗浄モデルで考えても分かりませんから超音波洗浄器の実験で確認しましょう。

簡単な汚れ(例えばスプーンに油を塗る)で洗浄実験しましょう。

液循環のON/OFF制御や、スプーンの揺動操作・・により洗浄液の流れによる洗浄効果・再付着に対する効果・・確認することができます。

これだけの実験でも、音響流の利用が重要だということが解ります。(汚れの動きを詳しく観察することを繰り返すと複雑な音響流を見ることができるようになります)

洗浄関係者(特に、精密洗浄関係者)にとっては、「キャビテーションで洗浄する」と言うような表現は大変危険だということが分かります。

超音波洗浄の現実は洗浄物の特性を含め非常に難しい事象(非線形現象)なのです。

The following two tabs change content below.
斉木 和幸
超音波システム研究所は、超音波の非線形性に関する「測定・解析・制御」技術を応用した、超音波の<解析・評価>方法(システム)を開発しました。この技術を利用した超音波機器(洗浄機、攪拌装置・・・)の<音圧計測・解析・評価>(出張)サービスを行っています。

関連記事

  1. 【SWOT分析】知財の持つ価値とは|知財経営の実践(その4)

  2. 製品ポートフォリオマネジメント(PPM)|キーワード辞典

  3. デルファイ法|キーワード辞典

  4. 【特許調査】知財の持つ価値とは|知財経営の実践(その6)

  5. 技術マトリックス|キーワード辞典

  6. 青柳コラム- 制約条件の理論(TOC)からSCM進化のポイントを考える

    制約条件の理論(TOC)からSCM進化のポイントを考える