出現するもうひとつのSCM:方針と挙動の統合

これまでのコラムで、QCDを参照してモノ不足回避・キャッシュ不足回避をあらたなSCMの方針に挙げ、モノの流れを安定と予想しました。こうした方針と流れを統合できれば、共創に寄り添うSCMの実行可能性を高めることができるので、今回検討します。

まず情報資源を選びましょう。方針と流れからすると、モノとキャッシュの情報になることは間違いないので具体的にみてみます。

モノの在庫量は当然で、販売見込とそれに基づいた部品等の期間別の所要量はわかるでしょう。

キャッシュも現在わかるキャッシュの出入りと、販売見込に基づいた今後の月別のキャッシュがわかります。

方針についてまずモノ不足回避をみてみましょう。今後の所要量がわかるので調達のタイミングは、所要量にあわせるか「前倒し」です。

キャッシュ不足回避は月別のキャッシュの出入りをすべてプラスにするとします。これを実行可能とする手順は、キャッシュがマイナスとなる月につながる調達の「山崩し」を、すべての月がプラスになるまで続けることです。

これら2つの調達を統合すると、所要量からみた前倒しの山崩しです。既存と異なる、つまり販売と違った波形となり、1つに定まらず選択は多様となるでしょう。

ここまでは、キャッシュの出入りがマイナスの月のある場合だけです。そこでキャッシュの状態に関わらずこの手順をいつも行うことを考えてみましょう。

月別にキャッシュ不足しない範囲で、すべての調達を単純に前倒して山崩すとき、波形全体の「押均し」を方針に採用すれば、その結果はまさしくモノの流れの安定となることでしょう。つまり方針と流れが統合され、毎月キャッシュがプラスにしかならない、共創に寄り添うあらたなSCMが現れたといえます。

さて、安定化されたモノの流れは所要量が前倒されることで成立しているので、単純に在庫量は所要量を超えます。この在庫は、既報(大量のオーダーにうまく対応できていますか?~大量受注の落とし穴~)で指摘した、ファントム(失注)対策に相当するとみることができます。川下の経営体がモノの流れを安定化させることで川上の流れも安定し、大量受注対応により接近できます。

共創に寄り添うことをねらいモノの流れを安定化させるとより多く受注できるので、既存のSCMの利益を超える場合があります。

このことが牽引力になれば、部分最適から全体最適へ質的変化をみせたSCMは、自律分散へ発展します。そのとき、モノとキャッシュは安定して流れ続けるのです。

The following two tabs change content below.
青柳 修平
キャッシュの最大化を、モノの多少にとらわれることなく考えると、単純に、販売を最大化させ、支払を最小化させればよい。このためには、失注・欠品しないほどモノを在庫し、返済金利の生じないように借入しなければよい。

関連記事

  1. 原材料費と労務費の低減|コスト改善の考え方

  2. 調達の制約に適応するモノの流れ|パンデミック(COVID-19等)を視野に入れたSCM

  3. 生産性の設定とは|生産性の測定と活用のポイント(その1)

  4. 【知財の持つ価値】ライセンス契約|知財経営の実践(その19)

  5. 【知財の持つ価値】 共同開発契約|知財経営の実践(その17)

  6. キャビテーションと音響流の論理モデル