1. 少子高齢社会での技術・技能伝承
高齢者比率が増大し少子化が進展する、いわゆる少子高齢社会で企業が安定的に成長していくためには、圧倒的な生産性向上が必要となる。そのため技能やノウハウといわれる属人的な知的資産を見極めることが重要だ。付加価値を生む作業を特定し限られた人物に伝承しつつ、それ以外の作業は標準化や圧倒的な効率化を行なうのだ。このような技術・技能伝承が今後必要となる。
たとえば図1のように熟練者がもつ技術や技能・ノウハウを識別し、付加価値をさらに高める技能・ノウハウとそれ以外の標準化すべきものを明確に切り分けて対応する。
また平成23年度時点で、15歳~34歳までの若手と35歳~65歳までの中高年の人口構成比率が1:10の比率になっている。このことからすべての中高年の技術やノウハウを限られた若者に伝えることは不可能である。そのため中高年のもつ技術やノウハウを標準化・共有知化し、若者や外国人労働者などのさまざまな労働環境に任せられるような状態を作り上げる。一方、付加価値のある技能・ノウハウは熟練者にさらに深耕してもらうような取り組みを行なう。たとえば短時間勤務など高齢熟練者の働き方、若者との作業分担など作業環境を見直していくのだ。
このような技能やノウハウを識別するのに、多くの時間と投資はかけられない。そのため、幅広い業種や職種で対応でき、かつ短期間で効果を生み、比較的容易に技能やノウハウを識別し、可視化する仕組みが求められる。
2. ICTと技術・技能伝承
ICTの急激な進展に伴いわれわれの働き方も大きく変化している。その結果、ICTなどから出てくる情報を過信するあまり、現場での気づきや感覚が失われ、そもそも現場に行かずメールなどで済ませ、また現場の人と会話する機会も減ってきている。このような現象が新しく生まれるノウハウの共有や知識の蓄積の障害ともなっている。ICTから出る情報を鵜呑みにせずICTに依存しないような仕組みが必要となっているのだ。しかし少子高齢社会において少人数で業務を遂行するには、自動化やICTの活用は必須である。また外国人労働者や異業種から流入した人材を短期間で育成し、即戦力として効率よく活用していくためには、技術やノウハウを分かりやすい形で習得させる事が必要だが、ICTを活用すればそのようなことも可能となる。
とはいってもすべての技術やノウハウをICTに置き換える必要はない。ICT化した段階、つまり標準化した段階で差別的優位性が失われる恐れや技術流出の可能性が高まる。従って、事業継続の肝となる技術やノウハウは暗黙知の状態、つまりブラックボックスの形にして、属人的に伝承・深耕していくことが必要と考えている。AIやIoTを活用するような場合も同様である。依存するのではなく、活用することでさらに付加価値をつけられるような工夫が必要となる。
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