1. 技術と技能に分けて考える
技術・技能伝承を推進する場合、技術と技能に分けて考えることを推奨している。技術とは図面や数値などで形式知することにより伝承が可能なもの、一方技能は人が行なう働きや動きなど人を介在し伝承できるものと定義している。作業分解により技術と技能を識別することができれば、技術は誰でも仕事ができるように標準化・自動化することが可能となる。一方技能は、付加価値を生み出すものとして個人に帰属させ、社外流出を防ぐと共にさらに技能を磨いていくのだ。このように技術と技能に切り分けて対策を行なうと、若者には技術を効率的に伝えることができ、また体力が落ちてくる熟練者にも長く勤めてもらい付加価値を発揮してもらうことが可能となる。
熟練ノウハウである技能をさらに可視化しようとする場合、熟練者の思考プロセスを解きほぐすこととなる。熟練者が何かの行動を起こす場合、その作業の何かの特徴を捉え、その状態を判断し、判断基準の元で決断し、行動に移している。たとえば何かの特徴を捉える場合、「視覚」「聴覚」「触覚」などからどのように観察しているかを突き止めるのだ。このように思考プロセス毎に作業内容を詳細化していけば、暗黙知の可視化は可能となる。
2. 伝承推進体制を整備する
技術・技能伝承をOJTで行なう場合には伝承者と継承者がペアとなり行なうが、お互いの相性の問題もありうまく進まないケースも多い。中堅企業や中小企業の場合、同世代の同僚が少なく、相談できる人がいないということが背景にある。そのため技術・技能伝承を組織的な活動として行なう必要がある。たとえば、半期毎の目標管理に組み入れ管理職が定期的にチェックしたり、朝礼や夕礼などで日々の気づきを共有する場を作ったり、また会社や職場毎にアドバイザーを設置して困った際に相談できる体制を創っておくのだ。このように組織的な活動にしていけば、さまざまな課題にも対応しやすくなる。
また伝承者からの押しつけだと継承者が受け身になっているケースも見られる。受け身の場合、モチベーションが高い場合に比べ1/5程度の伝承スピードになるという報告もあり、伝承者の協力を取り付けると同時に継承者の受け身の姿勢を無くすことが重要となる。継承者へ夢を語り、将来の目指す姿をイメージさせるような工夫を行ないつつ、また伝承計画を継承者と一緒に作成するなどにより受け身の姿勢を軽減することが必要となるのだ。
3.継承者視点の仕組みを作る
技術・技能伝承は、伝承者から知識やノウハウを伝授するが、その内容は必ずしも継承者が必要な情報とは限らない。伝承に必要な情報は継承者個人毎に異なる。つまり継承者の過去の経験や知識などの経験値により、必要な情報が異なるのだ。そのため伝承者は、いかに効率的に伝えるかを考えるのではなく、継承者が何を必要としているのかを見極めることに注力すべきなのである。
また作業標準やマニュアル類には、作業手順と作業内容は記載してあるが、カンコツといったノウハウは行間に隠れているケースが多い。そのため作業手順を覚えたら、作業標準類は使われず埃を被っていくことになる。作業標準類を継続的に活用するためには、たとえば新人が入った都度作業マニュアルを見直しさせ、継承者視点で作業マニュアルを整備していくような仕組みも必要となる。
またナレッジマネジメントなどでも伝承者視点で作った仕組みには、継承者が必要とする情報が少なく、作った段階から陳腐化が始まる。本来は継承者視点で仕組みを作り、継承者が困った際には、会社内の同僚や先輩などに質問できるような仕組みが必要なのだ。このように継続的に仕組みを活用していくような工夫が、技術・技能伝承には必要なのだ。
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