少子高齢社会でのものづくり|技術の伝え方〜平成の次の時代に向けて(その2)

1. 少子高齢化の進展

少子高齢化が進むわが国では、生産活動に従事する生産年齢人口(15~65歳までの生産活動に従事しうる人口)が10年毎に700万人ずつ減少し続けている。また2005年で8千万人超だった生産年齢人口も、2060年には半減の4,000万人になるという高齢化白書の報告もある。少子高齢社会では、現在の半分の従業員での事業運営を求められるのだ。従って今と同じ生産性を維持していくには、コアの技術やノウハウ以外の作業を標準化しICTや自動化などにより圧倒的な生産性向上を行なっていく必要がある。

 

一方、生産年齢人口の構成を見ると、15~34歳の若手と35~65歳の中高年との比率が10:1という状況になっている。中高年10人がもつ技術や技能を一人の若者に伝える事態になっており、受側のキャパオーバーの状態が続いている。そのため中高年がもつ技術や技能を表出し、標準化したうえでICTなどを活用して自動化・効率化していくもの、また次世代に伝えていくコアの技術やノウハウに識別することが必要となる。そのうえで、少子高齢社会のものづくりに対応できるように、より生産性を高めるような改善を行っていくことが求められる。

 

2. 少子高齢社会でのものづくり

少子高齢社会でものづくりを続けていくためには、付加価値を維持する対策と付加価値を向上する対策の両面からものづくりを考えておく必要がある。図1に示すように、付加価値を維持していくためには、人手不足対策として外国人や高齢者など多様な労働者を活用しつつ、ICTやIoT、AIといった技術を使い、作業を自動化・効率化し、誰でも作業ができるものづくり環境を作り上げていくのだ。

少子高齢社会でのものづくり

図1:少子高齢社会でのものづくり

 

一方付加価値を向上していくには、大多数を占める中高年から次世代へ伝えるべきコアの技術やノウハウを抽出・絞り込み、それらの技術やノウハウを深耕していくことに注力するのである。

 

少子高齢社会でのものづくりでは、付加価値維持と付加価値向上とは密接な連携が必要となる。例えば、標準化できる作業は形式知化が容易であり、機械化や自動化への展開も可能であるため、多様な労働者に合わせた作業環境整備(役割分担など)を行なえば、誰でも同じ状態のものを創り出せるようになる。標準化→ICT活用→作業環境整備というような技術移転の流れを意図的に作り出しておくのだ。

 

一方、残すべきコアの技術やノウハウは、標準化した段階で差別化要素が失われ、技術流出の可能性も高まるため、無理に表出(形式知化)せずに属人的に伝承しつつ、技術を深耕していく。少子高齢社会でのものづくりでは、この技術移転と技術深耕をバランスよく行っていくことが必要となる。

 

3. 暗黙知可視化の必要性

技術を伝える場合、標準化や機械化などにより、組織全体の技術レベルの底上げを行なう技術移転のケースと属人的なコア技術・ノウハウへ付加価値をつけていく技術深耕のケースに大別できる。技術移転を行なう場合、共有知として情報共有するために形式知化を行なうことが前提となる。図表・数式・言語などにより誰でも理解・利用できる形に具現化し保有可能な形にするのだ。また形式知化した作業の一部或いは全部の自動化を行い、誰でも作業ができるようにしていく。一方技術深耕の場合は、属人的に伝える必要があるためOJTに代表されるような一子相伝(FromTo運動)の方法により、伝えつつ創意工夫を加えていく。

 

このように暗黙知状態から形式知化可能な部分と属人的な部分に抽出・整理する必要があるのだが、暗黙知状態からすぐに技術移転や技術深耕が見極められる訳ではないため、より効率的に属人的な部分と形式知化可能な部分に識別することが求められる。一方、機械化や自動化された技術をさらに生産性向上するためには、一度暗黙知の状態、つまり属人的な状態に戻し、改善を加えたうえで再度機械化や自動化する必要がある。機械化や自動化された作業は、改善された状態を維持するための仕組みであり、それ自体に改善を促進する機能はない、従って機械化や自動化する際には、事前に十二分に改善・改革を行っておき、再度改善を行なうというような後戻りを最小限にするような工夫も必要である。

 

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野中帝二
暗黙知の可視化や形式知メソッドをお伝えすると共に、伝承コンサルで体験した陥りやすい課題を解説し、可視化や付加価値向上に向けてどのように対応すべきかを解説致します。さらにワークショップを通じて形式知メソッドを体験して頂き、実務での活用にむけた実践力を醸成致します。暗黙知の可視化や形式知化に関心のある方はぜひご検討ください。

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