【はじめに】
ウェブサイトや書籍などで名前はおなじみのSCM(Supply Chain Management)について成り立ちなどをお伝えします。問題突破の際の思考材料にいかがでしょうか?
サプライチェーンについて読者の方々は、原材料・部品・製品などが異なる業種・現場から成り立つ移動経路を流れているイメージをお持ちではないでしょうか? 経営体1つのモノやキャッシュの流れやそれらの相関を探求するだけでよいように思えるかもしれませんが、なぜ複数の経営体をひとまとめにして扱うのでしょうか?
【定義】
SCMの歴史にふれるまえに、まず定義を確認すると、下3点からなる「経営の考え方」です。
①最終顧客にフォーカスすること
②サプライチェーンを一体とみること
③参加者はメリットとデメリットを共有すること
【大量生産のはじまり: フォード・モーター】
SCMのほとんどの主なできごとは、20世紀に起きました。
まずヘンリー・フォードが1903年にはじめたフォード・モーターにより、それまでになかった大量生産で同じようなモノを安くすることができるようになりました。はじめは固定され飛び飛びに設置された作業台を仕掛品が運ばれていました。そしてエラーがどこかの作業台で発生すると、そこより川上の流れを可能な限り止めることで、不要に流れてくる部品等を阻止することを試みていました。なおこうした作業台は後日、ベルトコンベアによってとってかわられることになりました。
【需要変動増幅の発見】
1910年代にP&Gによって、川下から川上へいくほど需要変動の振幅が広くなっていくことが報告されました。業種を問わずに広くなっていくことも確認されており、1920年代になるとクラークによって需要変動の拡幅は第1次産業(小麦)でも確認されました。
【在庫低減のはじまり: トヨタ生産システム】
1940年代にはトヨタ自動車による資金繰り対策としてトヨタ生産システムの開発と導入が始まりました。在庫が資金を圧迫することで資金繰りがうまくいかなくなることから現在も徹底した在庫低減を行い続けています。
トヨタ生産システムは、カンバンと呼ばれる指示票を部品1つ(組) 1つ(組)に貼り付け、部品が使われると同時にカンバンが剥がされ、組立工場から部品工場へ運ばれて次に入荷される部品に再び貼り付けられます。カンバンの枚数を増減させることでかんたんに在庫水準を管理できます。こうした補充のアイディアは、大野耐一がスーパーマーケットで得たとのことです。
なお部品工場(またはベンダー)で飛んできたカンバンをすぐに部品に貼って出荷できるようにするために、工場どうしで数か月先までの生産計画を共有したうえで、原材料を調達して部品を生産しています。
のちにリーン生産方式と呼ばれるものはトヨタ生産システムに触発されて開発されたもので、需要予測にもとづいた販売見込に対し調達・生産のスピードをあわせるものです。
【需要変動増幅の再現と原因・対策: システム・ダイナミクスの誕生】
1950年代になると需要変動が増幅していく現象は、フォレスター教授によってコンピュータで再現され(1958年)、フォレスター効果と呼ばれるようになりました。実態調査やシミュレーションなどの知見から、増幅の原因と回避方法がまとめられていきました。原因は、情報の遅れとモノの遅れとされました。
フォレスター教授の時間遅れをあつかう手法は、当初、インダストリアル・ダイナミクスと呼ばれ現在のサプライチェーンをすでにサプライ・パイプラインと名付けてシミュレーションしていました。
1972年にローマクラブによって出版された「成長の限界」ではインダストリアル・ダイナミクスの対象を産業から全世界へ拡張しシナリオ別の予測をしました。こうしてインダストリアル・ダイナミクスはシステム・ダイナミクスと名前を変え多様な分野で採用されていきました。
【TOCへの脚光】
イスラエルの物理学者(ゴールドラット博士)に親戚から生産管理のスケジューリングの相談がもちかけられました。そうして1974年にOPTという高額(40万ドル)なソフトウェアが作られました。それから10年後の1984年にこれまでになかったOPTの考え方を制約条件の理論(TOC)と名付けビジネス小説「The Goal」にまとめて出版しました。
TOCはサプライチェーン上のボトルネックのスピードに合わせて原材料を投入することを提唱しており、現在の最先端理論としてアメリカ軍も採用しています。具体的なSCMの手法にはDBRとS-DBRの2つがあります。TOCではSCMに関係するボトルネックとして生産と販売の二点を指摘しており前者のスピードに合わせた調達にすることをDBR、そして後者に合わせる場合をS-DBRとしています。DBRはボトルネック工程のスピードを落とさないように直前の部品・仕掛品を多めに用意します(保護バッファ)。
【ブルウィップ効果】
1997年、スタンフォード大学のハウ教授はこれまでフォレスター効果とよばれていた需要の増幅が現実に観測できるものとしブルウィップ効果と名付け変えました。その原因に以下の4つを挙げています。
1 需要予測更新: 販売見込と安全在庫からなる在庫目標が更新されるとき、販売見込と需要の差が新規の販売見込と安全在庫へ二重に反映されてしまいます。新規の販売見込に差が反映されると同時に、差がなければ調整しないはずの、安全在庫=繰越在庫の過不足が調整されるからです。
2 注文単位: 必要数ではなくロット単位の注文が多いからです(バービッジ効果)。
3 価格変動: 価格の高低の変化だけで販売が変わります。
4 欠品対応: 欠品によって注文者が再び注文を繰り返し続けるからです。
マッケランら(2000)によってまとめられたブルウィップ効果の解決方法は以下4点です。
1 ブルウィップ効果を緩和するシステムの採用
2 計画の立案サイクルの短期化
3 川上と川下の情報共有
4 ひとまとめにくぎる流通段階の削減
【おわりに】
たとえば2003年には同期を前提としてブルウィップ効果を起こさない計算過程がGEやMITのチームから提案されています。
筆者らは在庫期間情報を利用し安定化させた調達を2000年に、ROIを適用して安定化させる調達を2004年に報告しています。今後もシンプルで効果的な手法の研究開発を続けます。
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