制約条件の理論(TOC)からSCM進化のポイントを考える

制約条件の理論(TOC:Theory of Constraints)をご存知でしょうか? 

全体最適のためにはボトルネック(制約)の発見・活用が最重要であるという理論で、ゴールドラット氏の著書「The Goal」に詳しく書かれています。

TOCは生産現場だけでなく、調達分野にも適応が可能です。
それまで調達・生産を需要(市場による制約)に合わせていたところを、サプライチェーン上のボトルネック(制約)も考慮することで、サプライチェーンを流れるモノの量を最少にできます。

TOCは1970年代にゴールドラット氏が生み出した手法ですが、その後半世紀ほどSCMのイノベーションは出てこず、いまだに先端の手法です。

1970年代初頭、地球・人類の成長の限界が話題になっていました。
TOCはその限界(制約)に対する一種の解として生み出されたと筆者は洞察しています。
当時はまだ盲点であった地球・人類の成長速度の低下を見逃さない、慧眼のもたらした成果でした。

さて、生産システムやサプライチェーンの制約は、組織内の方針や物理的な制約、市場制約だけでしょうか? 
サプライチェーンは調達・生産・販売、またはそれらの連鎖です。調達にも制約条件が潜んでいることは自然でしょう。

例えば原材料投入量は、物理制約か市場制約に合わせるはずの値ですが、制約条件(調達制約)として考えることも可能です。

共創(複数の分野・組織の関わりでサービス提供・問題解決を行うこと)による価値創造は、最近のトレンドです。SCMが共創に関われれば、モノの流れを最小にする以外の価値提供を行える可能性があります。

調達量・生産量を考える際の基準値を販売量以外の値にすることもあり得ると筆者は考えています。

たとえば生産の物理制約として、SCMに流すモノの下限値を設けることが考えられます。
現状の生産の物理制約はSCMに流せるモノの上限値であり、下限値は制約条件として活用されていません。
共創の特徴は未知ですが、既存手法にくらべモノを多く流すことが増えるのであれば、生産量の下限値を新たな制約条件(共創制約)として活用できるかもしれません。

このように新しい制約を考えることは、非常に大切なことです。
なぜならば、TOCは地球・人類の成長限界(制約)から影響を受けた理論だからです。SCMにイノベーションを起こすには、新しい制約を考えてみることが鍵なのです。

次の制約として、たとえば環境・社会を視野に入れることが考えられます。
森林は水源確保・国土保全に力を発揮するため、木材がSCM上で伐採から販売まできれいに流れ、生まれたキャッシュを森へ還元し、手入れを行う必要があります。
たとえば社会の一員である障がい者や高齢従事者の雇用安定のためには、作業所・工場の生産量は安定が好ましいでしょう。

このような観点から考えると、調達が社会に与える影響を最大化でき、新しいイノベーション手法が誕生するかもしれません。

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青柳 修平
キャッシュの最大化を、モノの多少にとらわれることなく考えると、単純に、販売を最大化させ、支払を最小化させればよい。このためには、失注・欠品しないほどモノを在庫し、返済金利の生じないように借入しなければよい。

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