ランチェスター戦略|キーワード辞典

ランチェスター戦略

競争の科学とその法則性を示した戦略思想とその計量化の原理。第二次世界大戦を支配した″勝ち方のノウハウ″であった。

ランチェスター戦略とは

競争状態における勝ち方のルールと、その法則性を一つの思想として体系化されたものが、ランチェスター法則とランチェスター戦略モデルである。もともと、軍事戦略における戦力の計量分析から生れたものであったが、マーケティング戦略や営業力の評価における基礎的な分析法として活用される。とくに市場占拠率の評価の基準に欠かせない。

ランチェスター法則とその歴史

ランチェスター法則とは、イギリスの航空機工学のエンジニアであるランチエェスターによって発表された。ランチェスターは、航空工学史上でプロペラの研究者として「ランチェスター・プラントルの翼揚力の理論」でも知られているが、同時に空中戦闘における戦闘機数と損害量との関係について研究し、この結果生れた法則がランチェスター法則である。さらにこの法則が地上戦闘における兵力数と損害量との間についても成立することが実証されたのである。

(1)ランチェスターの第一法則

ランチェスターは、第一次世界大戦を中心にしてその実戦の戦闘記録を分析することによって空中戦は基本的に一騎打ち、接近戦、一定の射程距離内の個対個の戦いであることを見抜き、何回かの戦闘によって平均的につぎの第一法則が成り立つことを立証した。

M₀-M=E(N₀-N)または戦闘力=E×兵力数

ここでM₀とN₀は戦闘前の戦力を意味し、MとNは何回かの戦闘の後の残存数を意味する。EはExchange Rateの略で交換比とよばれ、損害量の割合、つまり火力や腕前の程度をあらわす比である。

このランチエスターの第一法則は、地上戦闘においては戦国時代のような弓矢の闘いのように、局地戦(敵の兵力数のわかる範囲の視界内に入る闘い)、一騎打ち型(一人が一人を狙い打ちする兵器による闘い)、接近戦(敵がだれであるか看破できる至近距離の闘い)の3つの状況において的中することが立証された。

(2)ランチエスター第二法則

この第一法則に対して、ざんごう戦を主にして、機関銃や大砲を火力として用いる戦いは集団対集団の対決であり、兵力の構成員一人ひとりはどこから攻めてくるかわからない敵の兵力すべてに注意を向けている必要が生れる。このような広域戦、確率戦、遠隔戦といった状況の下ではつぎの第二法則が的中する。

 M₀²-M²=E(N₀²-N²)または、戦闘力=E×(兵力数)²

つまり、集団対集団の戦闘では、対する力関係はその二乗比に転化することが見出された。一般に近代戦とよばれる戦闘は、さきの戦国時代のような闘いとちがってこの第二法則によって損害量は決まってくる。

以上のようなランチェスターの2つの法則は1916年に発表されたが、この分析とその思想はのちにオペレーションズリサーチ(OR)の研究のきっかけを作ることになった。

競争戦略の中の思想とその論理

いまあげたランチエスターの第一、第二法則の研究は、ランチェスター戦略の基本的な思想の部分と、そのコンセプト(概念)を形成している。

この2つの法則は、のちに「弱者の戦略」(第一法則の思想)と「強者の戦略」(第二の法則の思想)を生み出し、この強者と弱者の戦略は明らかに異なっているという概念を生み出した。

すなわち、この両法則の差異が示すように、兵力数の少ない弱者は、第一法則が示すような戦闘の範囲、場面、状況、条件、地形を重視すべきであり、また、兵力数が多いほうがつねに損害量が少であるという原則を重視する。

ここに弱者の戦略のつぎの5原則が生れた。
(1)つねに局地戦をえらび、ここで闘う
(2)接近戦の中でのみ戦闘を展開する
(3)一騎打ち型の局面、火力を重視する
(4)兵力の分散をさけ、一点集中主義に徹す
(5)敵に分散と見せかけ陽動作戦をとる

この5原則の典型は織田信長の戦略に通ずる。この弱者の戦略思想に対して、その逆の条件やしくみ作りが強者の戦略である。

(1)なるべく確率戦の状況に引きづり込む
(2)一騎打ちをさけ、総合戦、広域戦を展開
(3)接近戦をさけ、間接的遠隔戦をつくる
(4)圧倒的な兵力数で短期決戦を狙う
(5)敵を分散させるための誘導作戦を展開する

この強者と弱者の発想の区別とその応用は、マーケティングや販売における状況と力関係を考える判断の中心的基準である。

ランチェスター戦略の応用領域

第二次世界大戦に入ってから、アメリカの海軍に徴用された数学者たちは、コロンビア大学の数学教授であったB・O・クープマンを中心としてランチェスター戦略モデル式というものを構築した。これがさきにあげたOR(オペレーションリサーチ)のはじまりとなったが、ランチェスター法則にみられる単純な概念をさらに修正し、生産、補給、生産率といった関数を導入して、戦力そのものを戦略力と戦術力とに分けてモデル化を試みたのである。

このモデルの成立によって思想面のみならずその応用領域はつぎのようなひろがりを見せるに至っている。

(1)強者と弱者とを分ける力関係の数値の評価。これは市場占拠率の評価である。なぜ40%のシェアがナンバー・ワンの条件となるか、という研究
(2)戦略力二、戦術力一という戦力配分の原理。なぜ、戦略力を重視するかという具体的なマーケティングカの配分の研究領域
(3)戦術力の中での作業量を攻撃量として標準化することの研究
(4)地域戦略の中の弱者に有利な地域や商圏の研究
(5)ポートフォリオ戦略の組み合せの原理研究

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