前回までのコラムで、SCMによる共創への対応と、モノ・キャッシュ不足の回避というあらたな方針を提案しました。本コラムでは、共創と調達のあり方について、深堀していきましょう。
ブルウィップ効果とは?
ブルウィップ効果という言葉を聞いたことはありますか? 川下で起きた現象が、川上へ増幅して伝わる現象のことです。例えば、ある注文に販売見込と実需のズレが生じた場合、次の注文では販売見込修正と繰越在庫調整が二重に影響します。
ブルウィップ効果は1910年代にP&Gが報告しました。その後100年ほど経過したことで、解決方法はいくつか提案されています。SCMの方針であるモノの最小化は、なんらかの対策でブルウィップ効果を防がなければ実行不可能です。よって経営体内外で情報共有し、つねにモノの移動量を販売に合わせることに集中するわけです。SCMで共創を実現するには、ブルウィップ効果を生じないことを前提として、情報共有・販売起点ではない新しいモノの流れを提案する必要がありそうです。
SCMで達成すべき自律分散とは?
ブルウィップ効果の研究は、個と全体の相互作用を重視するシステムダイナミクスという分野のシミュレーション(モデルによるシステムとその内部の経時変化)によって盛んでした。そこでシステム自体がどのような道を進むのか知るために、複雑系というシステム分野の知見を参照します。
情報共有以前は個々の経営体がモノを少なくさせる「部分最適」の段階といえます。情報共有を中心にした現在の段階は「全体最適」に相当します。部分最適・全体最適に続くシステムの段階は「自律分散」です。
自律分散は複数の参加者によって、中央集権ではないのに調和がとれて目的が果たせる段階です。モノの流れで考えると、緊密な情報共有がなくても、ブルウィップ効果が生じないことを指します。つまり川下の需要の変化が瞬時に川上全体に反映されることを意味します。残念ながら、需要変化を瞬時に川上に反映させることは、ほぼ不可能でしょう。
ただし唯一あり得る条件が一つあります。いずれかのモノの流れが安定したとき、それより川上のすべての流れはすでに安定している状態です。すなわち、全体のモノの流れをつねに安定させるSCMであれば、自律分散の状態が実行可能といえます。
SCMで共創に寄り添う価値
遠回りになりましたが、ブルウィップ効果を回避するモノの流れは、販売を基準にするか安定させるかの2つです。共創するとき、求められる流れがどうであれ、これら2つのいずれかの採用になるでしょう。社会全体を考えると、モノの流れが安定するとキャッシュの流れもつねに安定します。このようにSCMが共創に寄り添うことは、目的の価値を達成する以上の副次効果を自己・非自己それぞれに生みだすことにつながりそうです。
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