【はじめに】
地球規模でコロナウイルスの被害にさらされつづけているので、どのサプライチェーンも万全ではありません。しかし既報で指摘してきたとおり、いまだSCMの手法は(TOCに代表されるような)調達を物理的制約か市場制約に同期させるほかは、筆者の提案するモノの流れの安定以外にみあたりません。
同期はモノを最少にするので、そこにコロナウイルスのダメージを受ければ単純に、市場の製品の数量不足や納期遅れにつながります。くわえて可視化されてこなかった失注(大量のオーダーにうまく対応できていますか?~大量受注の落とし穴~)と重なることで市場の在庫不足は深刻化・慢性化して人々の日常をおびやかしかねません。
複雑系というシステム分野からみると、現在の同期の指向する「全体最適」の次は「自律分散」の段階になります。モノの流れの自律分散を考えると、(同期で必須の)情報共有がなくとも、ブルウィップ効果(ブルウィップ効果を回避するためにSCMで達成すべきモノの流れとは?) とよばれる需要変動増幅現象を起こさないことが重要で、さもなくば意味のない過剰在庫で資金が圧迫されます。具体的には、情報共有のない何段階も経るサプライチェーンであっても、最も川上のモノの流れの振幅は最も川下の振幅と等しいか小さくならなければなりません。これは川上も川中も川下も(最終製品の販売以外の)モノの流れが安定している状態でなければ実現しないでしょう。
本報はコロナウイルス対策としてモノづくりで標準的に参照されているTOC(制約条件の理論)をとりあげ、その情報資源を拡張してモノの流れを適正に安定させる手法を記すものです。本報は、モノの流れを安定させるSCMの手法のうち、「会計」を解説しています。
【TOC(DBR・S-DBR)】
TOCは、モノの流れるスピードがボトルネックで決定してしまうことに着眼しています。
調達を生産に合わせるとき、つまりサプライチェーンのどこかにボトルネックがあるときに、DBRを使います。Dは、リズムを刻むドラムを比ゆに使い、サプライチェーン上の1番低速な個所の生産スピードを示しています。Bは、生産スピードがさらに遅くなることを避けるためにボトルネック直前にもうけるバッファで、保護バッファと呼ばれます。状況によって、出荷直前にもバッファをもうけて納期遅れ対策にします(出荷バッファ)。Rは、調達にボトルネックの生産スピードを伝えることをロープで例えています。
サプライチェーン上にボトルネックがないとき、調達を生産に合わせ、サプライチェーンのストック全体を出荷バッファとみなします(S-DBR)。DBRとS-DBRの間に順位はなく、両者の使い分けは認識されたボトルネックの位置に依存します。また、ボトルネックの固定化やS-DBRのみ使うなど、生産システムや状況によってTOCの在り方は多様です。
TOCによる調達は需要と同様に振動するか物理的制約で決まる一定速度なので、ブルウィップ効果は生じません。このTOCの特徴をサプライチェーン内の個々の生産システムが活かせば、情報共有をせずにブルウィップ効果を回避できるので、全体最適を超克した自律分散を実行可能とわかります。
さてTOCの概観は、川下に対する情報収集が前提であること、そして採用された情報が調達の意思決定に採用されていることです。挙動からすると振動と一定の中間となる安定においても川下に対して情報収集し、調達の意思決定に利用します。ただしTOCのように得た値をそのまま調達に活かすことは難しいと考えられます。そこで情報資源の領域をモノの流れに限定せずに拡張し、安定に向けた調達に採用できるように加工します。
【情報資源】
安定のための情報資源と加工・利用は下記のとおりです。
- 会計情報:調達の計算に採用します(ROI: 利益/在庫評価額)
- 在庫量情報:会計情報の計算に採用します
- 需要情報:調達の計算と需要予測に採用します
- 在庫期間情報:モノの過不足の指標です(在庫期間情報│過剰在庫・在庫不足の指標)
これらの情報資源があれば調達の安定化が可能になります。
【おわりに】
本報はTOCをとりあげ安定を可能にしたコロナウイルス対策を提案しました。そのねらいは失注・欠品を抑制するためのモノの確保と、調達のピーク値を極力低くしボトルネックを生じさせないようにすることです。すると支払も特定の時期に集中しなくなり、総じて利益を創り出しやすくなります。これらの影響は、実施する経営体・サプライチェーンを広く超えていくことでしょう。
最後に、コロナウイルスの被害にさらされ緊迫した状況ですが、混乱なく社会の機能が担保されつづけることを祈念してやみません。
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