福祉の視点からながめたSCM: 知的障害・精神障害等を考慮する豊かな社会に向けて

環境・社会・経済の安定化

 筆者は環境・社会・経済の安定化をテーマにし、その中核にモノの流れの安定化を据えています。

 環境面として森林の保育等に向けた資金の安定した山元還元を目指し、木材の安定した流れをねらうことができます。経済に関しては、モノの流れの安定化自体が多様な業種・現場・市場に広がることによって、キャッシュの流れとともに経済の安定が見込めます。社会については、環境・経済と違い計量が困難またはわかりにくいです。言い得ることは(犠牲のない前提で)、多くの人々のQOL(生活の質)を高め続けることと考えられます。そこで本報は福祉にフォーカスしてSCMとの関連について検討します。

社会のパラダイムシフトに向けて

 通常、病人に対して、社会は手厚く経営資源を振り向けます。一方、知的障害・精神障害の方々をみると自分のコントロールの醸成など社会に順応するための手ほどきを受けますが、一般社会に対して知的障害・精神障害の方々への接し方を学ぶ必要性を喚起することはとりたてて行われていません。

 比較すると知的障害・精神障害の方々、すなわち社会的弱者の側からだけ一般社会に合わせますが逆はありません。これは病人に対してと矛盾した現状です。

 病人や弱者に対し、社会は経営資源を振り向けることが暗黙の方針と仮定できるとすると、知的障害・精神障害の方々に対しても、一般社会の側からの可能な支援は自然で本質的です。こうした支援を受ける側と与える側の双方の増加は、より自分らしい生き方を選択できる人々が増えることにつながり、総じて豊かな社会の形成が期待されます。
 

福祉作業所

 福祉とモノの流れの安定化をむすびつけることは、大津雅之先生(山梨県立大学人間福祉学部福祉コミュニティ学科)のご提案です。わかりやすい例に、障がい者が従事する福祉作業所における生産活動の適正なスケジューリングの探索を挙げられていました。

 福祉作業所は福祉の現場というよりもむしろ調達・販売によって直接一般社会とつながっています。生産を販売と同期させると、日別変動が激しすぎる場合に障がい者には耐え難い不要な混乱を招くので解決方法が求められている状況です。

構造化

 自閉スペクトラムの方々が生活を理解するための支援に構造化があります。そのひとつに、活動別に関係の深いイラストのカードを用意し、生活や作業の順序を手助けする支援があります。こうした支援により、無理なく日々を暮らせるほか、生活上の目標を達成しやすくなります。

 障がい者は場合によって構造化により生活が安定しますが、福祉作業所での作業の日別変動が激しすぎると、支援しきれず混乱するときもあります。
 
 納期や予定した成果を達成し続けなければ一般社会への販売を続けることは難しくなります。よって作業の日別変動による混乱は避けるべきで、その解決は重要です。
 

社会の支援になり得る安定化

 生産活動の日別変動の抑制を読み替えると、筆者の提案するモノの流れの安定につながります。単純に考えると、生産活動の安定化で日別変動の問題はコストをかけずに解決でき、QOL向上につながり社会が発展するといえるでしょう。

 さらに一歩進めて社会全体へ安定化が広まることを仮定すると、原材料・部品・仕掛品・製品の各ポイントでストックに余裕ができやすくなり納期は今ほど深刻ではなくなると予想されます。すると、(障がいの程度によりますが)福祉作業所等の取扱業務そのものをより多方面に拡張しやすくなります。つまり障がい者は興味のひかれる作業をより選びやすくなり、すなわち職業選択の自由が広がります。

 SCMからみればモノの流れをいかにデザインしてキャッシュにつなげるかにとどまりますが、社会への関わりをみると人々の暮らしや人生に深く広く影響を与え続けることを否めません。

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青柳 修平
キャッシュの最大化を、モノの多少にとらわれることなく考えると、単純に、販売を最大化させ、支払を最小化させればよい。このためには、失注・欠品しないほどモノを在庫し、返済金利の生じないように借入しなければよい。

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