【はじめに】
熱帯雨林の伐採奥地化と両極の氷融解が維持され続ける限り、これからも未知のウイルス出現は否めない状況です。製造業はパンデミック等の状況や立ち直り期間では、2020年以前のような、利益効率のみの追求をできなくなります。サプライチェーンは、変更・間断的生産・少量生産・生産停止・合流など、状況に相応しくみえる処置で応ずることでしょう。
ここで既往のSCMを振り返ると、生産・販売には認めているボトルネックですが調達には言及すらされてきませんでした( 既報:制約条件の理論(TOC)からSCM進化のポイントを考える)。しかしパンデミックのような状況ではサプライチェーンに変化があり続けることも予想され、調達の制約を考慮することは自然です。
調達の制約の出現を予め知ることはできません。すると、失注や欠品を抑えるためには、どの移動経路のモノの流れもピーク値を抑えることが原則になると考えてよいでしょう。すなわちモノの流れは安定化がのぞましいことになり、これまでの筆者の提案につながることになります。
【安定化】
モノの流れを安定化させる手段は下記1~3が考えられます。比較のために同期させるケースと1~3を取り上げてシミュレーションします。なお100%を加えたROIに対して上限(150%)と下限(65%)をセットすることで安定化を担保しました。
- 平均需要: 過去の需要を平均して採用する。
- 1の調整: 平均需要に対して100%を加えた投下資本利益率(ROI: 利益/在庫の原材料評価額)を
乗ずる。ROIによって、利益が多くモノが少ない時に多めに調達できる。 - 2の修正: 利益が負のとき、在庫が多いほど少なめに調達すべきですが在庫が多いほどROIは小さ
くなりにくくなるので、ROIの分母を固定する。
※ 在庫目標に対する在庫不足・過剰在庫の調整は、本報でふれません
【設定】
シミュレーションの実行にあたり、前週注文して入荷したモノが今週販売される簡単な小売店を想定しました。
需要変動は1月4週の4年間(192週)分をエクセルのランダム関数を使い上限値1,000の設定で繰り返して平均500程度の波形を4セット取得しました。取得した需要変動4セット分のシミュレーションを実行して平均値を比較しました。
なおモノの流れに不具合が生じつづけている状況を模して、上限値1,000の変動ですが上限800でしか入荷されないようにしました。
具体的な測定対象はROIの平均とC.V.の平均と合計利益の平均です。利益は、販売のうち原材料費として3割と固定費として300を減じて取得します。C.V.は変動係数と呼ばれるもので、標準偏差を平均値で除して得られ、バラツキを比較可能な値となります。
【結果】
表-1にシミュレーション結果を示します。利益指標のROIは過剰在庫のない同期が1番高くなりました。同期は特に安定を指向していないので、単純にC.V.も大きくなりました。同期しているとはいえ今回のように調達に制約を与えたところ、在庫不足の期間が生じたために4試行のうち一番利益が少なくなりました。
安定させた1~3のROIはそれほど違いをみせませんでした。C.V.をみると、単純に需要の平均を採用した1は非常に小さく、ROIの導入(2)やその修正(3)など、「利益が多くモノが少ない時に多めに調達」することをより具体化した手順にするほど調達は安定からとおざかることがわかります。
1~3の利益を比べると、1と2にあまり違いはありませんが、より調達のねらいに適正なROIに修正した3は同期を含めた4つのなかで利益が一番多くなりました。
表-1 シミュレーション結果
【おわりに】
調達が制約になる前提でシミュレーションしたところ、従来の同期よりも提案している調達の安定化の方が総じて利益を多くすることがわかりました。このことは単純に在庫量の多少で説明できます。ここで指摘すべきは、利益指標(本報ではROI)と実際の利益の在り方は相関しないことがあるということです。
パンデミック以後は、概ね国内生産回帰が主流となるとともに機械学習による直観と反する意思決定支援の採用がいままでより多くなると考えられます。
トップマネジャーが利益効率追求にプライオリティを置きがちなことに変わらないかもしれませんが、それとは異なる本報の安定化などの基準・指標による重みづけは、むしろ利益追求につながることが示唆されたことになります。
環境・社会・経済などの経営体外部に対する配慮は一見ムダにみえるかもわかりませんが、自分たちの活動に反映されてくること、そして全体最適から自律分散へ変貌していくであろうサプライチェーンを考えれば、外部との配慮と反映による相互作用は、パンデミック以降の大切な鍵になっていくことでしょう。
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